第2回詰将棋創作大会 審査員の山川先生より保護者の皆様へ

保護者の皆様へ ~詰将棋創作大会に寄せて  山川 悟(山本将棋教室指導員)

詰将棋創作大会の第2回を開催させていただきました。

創作経験の乏しい子供たちにとっては少しハードルの高い宿題であり、ご自宅で苦労している様子をご覧になった方も多かったかもしれません。教室では何度か「創作講座」を開きましたが、生徒たちがみな、キラキラした目で受講する姿が印象的でした。かなり気合の入った作品にも出会うことができ、楽しみながら審査をさせていただきました。

詰将棋とは、将棋の最終局面、つまり玉将をどう追い詰めるかの手順を考えるパズルですが、400年前の名人たちから引き継がれてきた伝統文化でもあり、中には芸術の域に達する妙手順が込められた作品も多く残っています。

もちろん詰将棋を<解く>ことで読む力が訓練され、実力アップにつながるのはいうまでもありません。一方で詰将棋を<創る>行為には、どのような教育効果があるのでしょうか。

私は詰将棋作家としての経験とともに、大学生にボードゲームを創作させる調査研究に携わった創造性開発の経験なども踏まえて、その効果を次の4点ととらえています。

  • 厳しい条件下での創造性を育む
  • 課題設定能力を身につける
  • 試行錯誤、および完遂経験を生み出す
  • 解答者心理を想像する力を育む

 

これらをひとつずつ、見ていきましょう。

  • 厳しい条件下での創造性を育む

詰将棋は、ひとつひとつがすべて唯一作です。もちろん、作成した図が偶然、過去の誰かの作品と同じ(あるいは類似)になってしまうケースもありますが、めざすのは「自分だけのオリジナル作品」です。

ただし創作といっても、「持ち駒は全部使うこと」「詰ませ方は1通り」など詰将棋特有のルールを守らねばなりません。また今回の大会のように「3手詰にする」「捨て駒を入れる」などの条件を与えられることもあります。もちろん提出日も大事ですね。

こうした厳しい制限の提示は、「子供にはなるべく自由に考えさせたほうがよい」とする昨今の姿勢とは相反するイメージもあります。しかしよくよく考えてみれば、どんな創作物であっても、「一定の条件や制約をクリアしたうえでの自由演技」ではないでしょうか。

詰将棋創作経験を通して、ルールはちゃんと守る、そのうえで思う存分自己表現できる…そんな素敵な大人になってほしいと考えております。

 

  • 課題設定能力を身につける

子供の頃、試験の予想問題を自ら作成してみたご経験はないでしょうか。それなりに面倒な作業なのですが、やってみると先生が出しそうな問題、重点ポイントなどが見えてきて、効果的な学習につながったという方もおられるかも知れません。詰将棋創作でも、同じようなことがいえます。

誰かから問題を与えられ、それを早く正確に解く能力(問題解決能力)はとても大切です。これまでの学校教育は、そうした能力を重視(偏重)してきたといえます。しかし今日は、何が「問題」なのかを自分で定義し、それをみんなで一緒に考えようと提案する、もう一次元上の能力が求められる時代です。なぜならば今や、AIがだいたいの問題解決策を示してくれるからです。

「問題は先生が出してくれるものだ」と考える子供と、「自分で問題を考えてもいいんだ」ととらえる子供がいたとします。もしかすると、小中学校の成績は前者のほうが上かも知れません。しかし長いスパンで見ると、両者には大きな格差が生じます。多くの有能な経営者、そして新しい価値を生み出すクリエーターや研究者たちは、「自分で問題を考える派」です。大谷翔平選手も、自分で自分に課題を与えながら練習していますよね。

 

  • 試行錯誤、および完遂経験を生み出す

詰将棋を完成させるまでには、基本アイデアを生み出す段階、手順や配置を組み立てる段階、そして余詰(「よづめ」=他の手順で詰まないかどうか)を検討する段階…を経なければなりません。余詰があると、作品価値のない不完全作とみなされます(今回も審査対象外の扱いとしました)。

「やっと完成した!」と思って喜んでも、最後の余詰検討で潰れるケースが圧倒的に多く、それを修正するためにまた手順や配置を考える、といった試行錯誤を繰り返すのが常です。こうした推敲作業より、ダメだと諦めずに粘り強く考える姿勢が、自然と養われます。

また、電子レンジ調理からAIでの映像作成まで、頼んだものが即座に出来上がる便利な時代、「手間暇をかけて納得できるものをつくる」経験の場は、あるようでないのが現実です(例えば観光客向けの2時間〇〇体験とかで、果たしてそれが達成されるでしょうか?)。

自分なりに最後まで完成させた喜びと自信は、将棋以外の場面にも繋がってくるはずです。お子様が「うまくいってない時間」を、微笑ましく見守る勇気も大切だと思います。

 

  • 解答者心理を想像する力を育む

詰将棋には、大事な駒をタダで捨てる手や、あえて駒の性能を強くしない不成(ならず)など、実戦には現れない妙手が随所に込められています。

しかしどんな良い手を思いついても自己満足ではダメで、創作しながら「金を出る手は思いつくけど、引く手は思いつかないかも」「桂捨てはよくある筋なので、気づかれちゃうかな?」など、解答者心理をいろいろ考えてみる内省的な時間が求められます。そしてこの自問自答こそが、他者理解力や想像力の育成につながると考えています(私の専門のマーケティングでは「顧客理解」という言葉で、その重要性を表します)。

またこれは、相手をびっくりさせたい、喜ばせたいといったエンターテインメント精神養成にも一役買うのは間違いありません。詰将棋創作は一人でできる趣味ですが、解答者との対話を想定した、高度なコミュニケーション術ともいえます。

 

将棋は単に勝敗を競うゲームではなく、盤上に自分なりの思考を結晶させ、相手と深いレベルで対話する「静かな芸術」でもあります。今回、お子様が苦しみながらもひねり出した手順は、誰かに与えられた<正解>をなぞるのではない、自律的な一歩となります。ぜひご家庭でも、お子様の作品に触れてみて「この問題のどこが自慢なの?」といった対話をこころみてください。

今後とも、あたたかい見守りをよろしくお願い申し上げます。

 

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